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小惑星リュウグウは彗星の近くで生まれた

12月17日、川﨑教行准教授(理学研究院)、圦本尚義教授(創成研究機構/理学研究院)らは、JAXAの探査機はやぶさ2が採取した小惑星リュウグウのかけらから、リュウグウは彗星の近くで誕生したことがわかったと発表しました。

左が川﨑教行准教授(理学研究院)、右が圦本尚義教授(創成研究機構/理学研究院)。北海道大学創成科学研究棟に設置されている同位体顕微鏡の前で(撮影:広報課 学術国際広報担当)

リュウグウのかけらに形成当初の痕跡を探す

約46億年前の太陽系誕生から約200万年がたったころ、岩石や氷の微粒子が集まって材料となり、リュウグウの原型となる母天体ができました。それから約300万年後、母天体の氷がとけた影響で、それらの材料は現在のリュウグウを構成している別のタイプの鉱物へと変化しました。リュウグウがどこで生まれたかを詳細に突き止めるには、まずはリュウグウのかけらの中から、変化を免れた材料を探し出す必要があります。

はやぶさ2とリュウグウのイメージ図(©池下章裕)
はやぶさ2が採取した10mm超〜3mmの大型のリュウグウ粒子(©JAXA)

太陽の近くから太陽系の果てへと移動していたリュウグウの材料

そこで、川﨑准教授はリュウグウのかけらを電子顕微鏡で観察したり、同位体顕微鏡という特殊な顕微鏡で分析したりしました。すると、わずかながらに母天体のころから変わらず残っている材料を見つけることに成功しました。これらの材料は1000℃以上の高温環境、つまり太陽の近くでつくられたものと判明しました。「今までの研究により、このような熱い場所でつくられたリュウグウの材料は、その後、もっと冷たい場所へ移動していることがわかっています。太陽から遠く離れた場所だろうと予想はされていましたが、その場所を示す具体的な証拠は見つかっていませんでした」と、川﨑准教授は言います。

リュウグウのかけらから見つかった、高温環境でつくられた鉱物(左がかんらん石、右がスピネル)の電子顕微鏡写真。このような鉱物はサンプル中にわずか数十粒子ほどしか存在しておらず、そのサイズも最大で20~30μm(0.02~0.03mm)と小さい(©Kawasaki et al. 2022)

材料に含まれる2つのタイプの鉱物に着目

川﨑准教授はリュウグウが生まれた冷たい場所の詳細を探るため、まずは見つかった材料の酸素の同位体を分析しました。さらに、かけらに含まれる鉱物を「太陽型」と「惑星型」の2つのタイプに分類し、材料の中にどのような比率で存在しているかを調べました。「太陽型と惑星型のちがいはつくられた年代と場所で、太陽型は惑星型よりも昔に太陽にさらに近い場所でつくられたとされています。このように、つくられた年代や場所のちがう2種類の鉱物が太陽系の果てへと飛ばされ、そこで集まってリュウグウの原型をつくったと考えると、2種類の鉱物の存在比を他の天体と比較することで、リュウグウが誕生した場所のヒントになるのではないかと考えました」。

材料の構成がヴィルド第2彗星に似ていた

世界中のデータを集めて様々な天体と比較した結果、「ヴィルド第2彗星」と2種類の鉱物の存在比がよく似ていることを発見しました。ヴィルド第2彗星は、2006年にNASAの探査機スターダストがかけらを採取した、唯一サンプリングが行われている彗星です。川﨑准教授は、天体の材料の構成が似ていることから、リュウグウと彗星は近い場所でつくられたと結論づけたのです。ヴィルド第2彗星などの彗星は、木星よりも遠い太陽系の果てでつくられたと考えられており、リュウグウが寒い場所でつくられたことの裏付けにもなりました。

スターダストが撮影したヴィルド第2彗星の写真(©NASA他)

リュウグウの歴史を整理すると、太陽に近い高温環境下でつくられた鉱物が、太陽から遠く離れた低温環境下の彗星付近まで飛ばされ、氷などを取り込んでリュウグウの原型となり、その後、現在の公転軌道へと移動したということです。

リュウグウとヴィルド第2彗星の公転軌道を示した図。公転軌道は大きく異なるが、形成された場所は近く、木星以上に太陽から離れた場所であることがわかった(川﨑教行准教授提供の図を改変)

研究手法を未来に活かす

「単なる仮説ではなく、実際にリュウグウと彗星のデータを比較して結論を出したという点が、これまでの研究からの大きな進歩だと思っています」と圦本教授。川﨑准教授は、「鉱物の比率に着目するという主流でなかった手法を取り入れることで、このような結果を出すことができました。2023年9月に帰還するNASAの探査機オシリス・レックスが採取した小惑星ベンヌのサンプルも、北海道大学で分析を行う予定です。そういった研究にも、今回の手法を活かしていきたいです」と、意気込みを語りました。

(撮影:広報課 学術国際広報担当)

記者会見を開催

12月16日、創成科学研究棟にて、今回の研究成果についての報道関係者向け説明会を開催しました。報道機関4社が訪れ、翌日の新聞やニュース番組で取り上げられました。

創成研究機構 研究広報担当 菊池 優

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