研究の背景と目的
文明社会は新しい物質の発見や材料の開発とともに進化してきました。金属、セラミックスや有機結晶材料などの「固い物質」や、有機物、合成高分子や生体高分子でできた液晶材料などの「軟らかい物質」は現在の生活を支えています。近年、急速に進歩するナノテクノロジーやバイオテクノロジーにより、これらの材料の機能化は著しく発展してきました。これら従来の材料は、分子の静的な集合体であり分子レベルの性質がマクロなスケールの性質へとつながっています。これに対して、「動く分子」が集まって動的な振る舞いをみせる物質、「動く物質」が存在します。動く分子とは、化学物質や光などのエネルギーを運動エネルギーに変換する機構を有する分子です。そして、その分子が群れた「動く物質」の性質は、分子の動きが生み出しています。分子は、周囲の媒体や物体と相互作用しながら動きを発現するため、静的な物質にはない非線形的な機能やダイナミクスを誘起します。このような、小さな動く要素が群れをなすことによって、マクロなスケールの動きを生み出している事柄や物事、状態、あるいはそれに係わる研究課題は、アクティブマターと称されます。動く分子や動く細胞で構成された生物は、アクティブマターの集合体として見ることができます。また生態システムのような大きなシステムも、生物というアクティブマターの集合体として見ることができます。このような階層構造をもった動きが生まれるのも、アクティブマターの特徴です。一方、人工的には、アクティブマターの集合体によってマクロなスケールで有益な機能をもつ物質を創り出すことは未だ実現しておりません。そこで本研究構想では、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーと、数理科学的なアプローチを融合することにより、アクティブマターの学理の構築とそれに基づく新たな物質科学を創出する足掛かりを築くことを目的としました。
研究内容
本研究では、ミクロからマクロまでスケール横断的にアクティブマターの集合体(群れ)の動作原理を統一的に理解し、その知見をもとに、制御可能でかつ自在にデザイン可能な新たなアクティブマターを一から創出するための方法論の確立を目指します。
研究チーム構成
- 理学研究院 准教授 角五 彰(代表)
- 北極域研究センター 准教授 エヴゲニ・ポドリスキ
- 理学研究院 助教 景山 義之
- 電子科学研究所 助教 西上 幸範
- 東京理科大学 理学部 准教授 住野 豊
- 東京工業大学 情報理工学院 助教 グットマン・グレゴリー・スペンス
実績報告
- 令和4年度実績報告(実績報告書・実績概要)