ナノテクノロジー拓く革新的未来医療の創出

研究の背景と目的

2018 年のオンパットロ®(世界初の siRNA 医薬品)、2019 年のゾルゲンスマ®(アデノ随伴ベクターによる遺伝子治療)の承認により、核酸医薬、遺伝子治療が主役となるナノメディシンの時代に突入した。PI の原島は、1999 年よりナノテクノロジーを基盤として細胞内動態・体内動態を制御する独自のシステム多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND)の開発を進めてきた。20 年間の戦略的機能進化を経て、本システムによる細胞内動態制御・体内動態制御の性能は世界最高水準に到達し、核酸医薬・遺伝子治療の実用化を目標として、北大産学連携部と共に臨床応用を進めている。

本提案においては、薬学研究院で開発した基盤技術を中核として、北海道大学医学研究院、人獣共通感染症センター、電子科学研究所との融合研究を、若手研究者を中心に展開し(ポンチ絵参照)、①活性化線維芽細胞への選択的核酸送達システム、②新興ウイルスパンデミックを回避するナノ DDS、③微小組織環境動態を制御する光操作性ナノマシンを創製し、革新的未来医療の創出に貢献することを最終目的とする。

研究内容

①肝線維化を改善する新規核酸ナノ医薬の実現

C 型肝炎は近年の抗ウイルス治療薬の開発により治療成績の劇的な改善がなされたが、治療後においても肝線維化の残存・増悪する症例が相当数存在する事を申請者らが明らかにした(Hep Res 2020)。更に、脂肪肝を原因とする肝線維化症例は適切な治療法がなく、世界中で患者数が膨大になることから、新たな治療法の開発が急務である。研究分担者の佐藤はこれまでに独自の機能性脂質を分子デザインすることで核酸を肝臓へ世界最高水準の効率で送達可能な脂質ナノ粒子を開発することに成功している。また、研究分担者の須田は C 型肝炎治療後の臨床検体から肝線維化改善に関連するマイクロ RNA を独自に見出した。本研究ではこれらの基盤技術の発展と融合により、肝線維化を改善する新規核酸ナノ医薬の創製を目標とする。

②新興ウイルスパンデミックを回避するナノ DDS

今回の新型コロナウイルス感染症のように、抗ウイルス薬やワクチン開発には少なくとも 1 年以上かかり、世界規模の深刻な事態に陥る。新興ウイルス感染に対抗する最も迅速かつ有用な武器は我々の免疫システムである。本研究では、ウイルスの種類によらない抗ウイルス免疫を活性化するアジュバント(免疫賦活化剤)搭載ナノ DDS を開発し、迅速かつ汎用型の対パンデミック戦略を確立する。研究分担者の中村は、ナノ DDS とがん免疫学を融合し、アジュバント搭載ナノ DDSを創製し、製薬会社と連携してがん免疫ナノ療法の創出を進めている。人獣共通感染症センターの磯田と連携して本戦略の確立と実用化を目標とする。研究分担者の磯田は、日本で備蓄されている H5 亜型高病原性鳥インフルエンザのワクチン(Vac-1 ワクチン)の開発者であり、パンデミック呼吸器感染症の研究およびワクチン開発において非常に優れた実績を有する。

③微小組織環境動態を制御する光操作性ナノマシン

医薬品開発において、細胞実験 (invitro)や動物実験 (in vivo)と、ヒトにおける臨床試験の結果には大きな差異が存在する。このギャップを解決するために、近年 3 次元(3D)培養系が導入され、本培養系は細胞の成長状態や寿命などヒトの生体組織環境を模倣し、微小組織環境を反映している。研究分担者の山田は、オルガネラ標的型 DDS の開発に成功し、癌、遺伝子治療、細胞治療などのナノ医薬品開発に向けた自主臨床研究に取り組んでいる。2020 年 4 月からはルカサイエンス株式会社と連携して北海道大学・産業創出講座を開設し、『ナノ医薬品』の開発研究に着手している。研究分担者の高野は、光化学を専門とし、独自の光機能性分子の設計・合成に成功している。電子科学研究所・ニコンイメージングセンターは、超解像度かつリアルタイムイメージング技術を有している。本研究では、DDS 技術(山田)と光化学(高野)を統合した光操作性ナノマシンを構築し、悪性度の高い膵臓癌細胞の 3D 培養系(微小組織環境)を用いて、組織動態の光制御および癌光治療を検証する。

原島 秀吉 教授

大学院薬学研究院