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三澤弘明特任教授が最終講演【光と水でつくるクリーンエネルギー 人工光合成の実現を目指して】

3月3日(金)、今年度で定年を迎える、電子科学研究所 三澤弘明特任教授の退職記念講演会が開かれ、ゆかりある研究者や学生が参加しました。

中央が三澤教授。電子科学研究所 エキゾティック反応場研究分野の教職員らと

2006年に本学に着任し、太陽光と水からエネルギーや化学物質を生み出す最先端技術、「人工光合成」の研究を進めてきた三澤教授。人工光合成を実現するには、まずは太陽光を集めて蓄え、利用できる状態にしなければなりません。従来は紫外線を使った方法が主流でしたが、紫外線はわずか5%ほどしか太陽光に含まれないため、それぞれ太陽光のおよそ40~50%を占める赤外線と可視光をいかに利用するかが課題でした。

植物の光合成の仕組みを模倣した人工光合成。右下は金の微粒子などで構成されている光アンテナのイメージ図(Getty Imagesのイラストを用いて筆者作図)

赤外線や可視光を集めるために、三澤教授は金属が持つ特徴的な光学現象に着目しました。表面プラズモン共鳴という現象で、金属を10~100nm(1mmの1万分の1~10万分の1)まで小さくしたものに光を当てると、金属表面の電子が振動し、まるでアンテナに電波が集まるように金属に光が集中するというものです。三澤教授の研究グループは、金属のこうした特性を活かして、可視光の85%を吸収できる光アンテナを開発しました。これにより、水から酸素、そしてクリーンエネルギーである水素を高効率で発生させることに成功するなど、人工光合成を通して、世界が抱えるエネルギー問題を解決する糸口を生み出してきました。

長年秘書を務めた山口由美子さんから花束を贈呈

三澤教授は、本学が2012年から実施している、研究者が中高生に講義を行うアカデミックファンタジスタ事業にほぼ毎年参加し、札幌近郊の高校に出向いたり、実験室に中高生を招くなど、若い世代に科学を伝える取り組みを積極的に行ってきました。また、人工光合成を一般にわかりやすく解説する本の執筆にも携わりました。

札幌北高等学校にて講義後に生徒からの質問に答える三澤教授(2019年撮影)

プラズモンの化学
日本化学会 編 上野貢生、三澤弘明 著 共立出版、2019年

夢の新エネルギー「人工光合成」とは何か 世界をリードする日本の科学技術(ブルーバックス)
光化学協会 編 井上晴夫 監修 講談社、2016年

講演会の最後には、若い世代に向けて「成熟している学問分野が多いなか、新規性・独自性を生み出すには、コペルニクス的発想の転回が必要です。失敗を恐れず、勇気を持って突き進んでいってください」とエールを送りました。

(創成研究機構 研究広報担当 菊池 優)