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研究成果を味わう~旨味たっぷり 森で育った「北大短角牛」~

北海道大学 静内研究牧場の森のなかで、一心不乱に草を食む牛たち。北海道や東北地方で飼養される、日本短角種という和牛の一種です。昨年2021年に、「北大短角牛」として販売がスタートしました。放牧によりのびのび育ったお肉は、サシの少ない低脂肪な赤身が特徴で、噛むほどに旨味を感じられます。9月29日(木)から10月2日(日)の4日間、北大短角牛が東京・新大久保のポップアップレストランで提供されました。初日には「北大短角牛を食べる会」が開かれ、同窓生やファンが舌鼓を打ちました。いわゆるサシの多い霜降りの和牛とは、育て方も味もちがう、知る人ぞ知る北大短角牛の魅力に迫ります。

15名限定で開催された「北大短角牛を食べる会」。笑顔を見せる参加者とスタッフたち

牛本来のありかたで育てる

国内で生産される肉用牛は、そのほとんどが海外から輸入した穀物などをエサに、牛舎で育てられます。「放牧されて草を食んでいるイメージがあると思うのですが、そうした環境で育つ牛は実は少ないんです」と話すのは、静内研究牧場で研究をしている、河合正人牧場長(北方生物圏フィールド科学センター 准教授)。

河合正人牧場長(北方生物圏フィールド科学センター 准教授)。2019年8月撮影。今回の取材はイベント終了後にオンラインで行った

新ひだか町にある北大短角牛のふるさと静内研究牧場は、本学の教育・研究施設のひとつです。470ヘクタールもの広大な敷地は約7割が森林に覆われ、牛たちは緑あふれる森の中の牧草地で成長します。「夏季は放牧して牧草や野草を、冬季は干し草と、牧場内の畑で収穫したトウモロコシを発酵させたデントコーンサイレージなどを食べてもらっています。ここでは、『人が利用できない植物を肉にかえてくれる』という、草食家畜が生まれ持った能力を最大限に発揮させられる飼い方を追及しています」。これにより、一般的な肉用牛には1頭あたり5トンから6トンの輸入飼料が必要ですが、北大短角牛は1.5トンほどで賄うことができています。

森を抜けると、拓けた牧草地が現れる。当牧場では約150頭の牛を飼育しており、すべて日本短角種である

放牧というと、のんびりとした風景を連想してしまいますが、実際にはそのイメージとはかなりギャップがあるそう。「牛舎で育てるよりも目が行き届きにくいですし、放牧中は好きなように草を食べさせているので、体重管理や栄養管理が大変だったりもします。日々試行錯誤しながら研究を続けています」と、河合牧場長。

穀物を与えなくても草だけで育つ能力のある日本短角種。その生産量は、和牛全体の1パーセントにも満たないと言われている

ストーリーとともに感じる美味しさ

こうして育った北大短角牛の販売を請け負うのは、本学の元職員でもある、株式会社わっか 代表取締役の佐々木 学さん。今回のポップアップ出店も、企画からメニューの考案、調理まで、すべて佐々木さんによるものです。佐々木さんは、事務職員として本学に約15年勤め、2020年に退職。その後、北大短角牛の加工業者と偶然知り合ったことをきっかけに、販売を引き受けることになります。「北大短角牛として世に出るまでは学内限定で売られていたんですが、職員時代は売れ残った分があればすべて買い取っていたほど大好きでした。静内は子どもの頃に暮らしたことがある町ですし、静内研究牧場も北大に勤めていた頃はプライベートで毎年のように見学に訪れていた思い入れのある場所なんです」と笑顔を見せます。

「北大短角牛を食べる会」にて厨房で調理する 株式会社わっか 代表取締役の佐々木 学さん

「日本には牛肉の格付けがあり、A5が最も高い評価となります。これはサシの入り方や色などを目視で確認して行うもので、食味が考慮されるわけではありません。北大短角牛はサシが少ないことなどから格付けではA2等級程度の低評価なのですが、味や香りの評価は別。ぜひ実際に食べて味わってほしいと思います。そして、どこで、どんな背景で育てられたのかといったストーリーも、食べものを選ぶ基準のひとつになる時代です。僕にとっては、味とストーリーどちらにおいても、とても魅力的なお肉です」と、佐々木さん。

「北大短角牛を食べる会」で提供された 北大短角牛のローストビーフ

来店した人たちからも、絶賛の声が上がっていました。北大短角牛のリピーターだと話す男性は、「知人から紹介されて以来、何度も注文しています。本当にクオリティーが高いと感じますし、こうやって研究成果を実際に味わえるなんて、すごく説得力がありますよね」と頷きながら料理を頬張っていました。一口に和牛といっても、複数の品種があり、育て方によっても味が大きく変わってくる。北大短角牛を食べることで、牛肉の楽しみ方のバリエーションを広げてもらえたら、という河合牧場長の思いに応えるような、喜びあふれる場となりました。

北大短角牛を初めて口にした人も、「え!おいしい!」と驚喜

ECサイト・学内にて販売中

北大短角牛は、株式会社わっかが運営するECサイト「わっかテーブル」にて販売中です。また学内では、一部商品について「北大マルシェCafé&Labo」でも取り扱っています(2022年11月現在)。

北海道大学の研究が生んだ、旨味たっぷりの和牛。森のなかでゆったりと育った彼らに思いを馳せながら味わってみては。

(創成研究機構 研究広報担当    菊池 優)

【関連リンク】

【動画公開】森のなかの畜産研究(北方生物圏フィールド科学センター 静内研究牧場)

静内研究牧場ウェブサイト