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分子、細胞、動物… “群れ”でパワーアップする「アクティブマター」の謎に挑む(理学研究院 角五 彰 准教授がシンポジウムを開催)

5月26日(木)、「創成特定研究事業」に参加している理学研究院 角五 彰 准教授らの研究チームが、プロジェクトの本格始動にあたりキックオフシンポジウムを開催しました。創成特定研究事業は、本学の研究戦略に基づく重点的な研究を実施するため、「旧来の学問体系を超えた研究領域の創成」を目的に令和2年9月に創設されました。これまでに参画したプロジェクトは全8つで、角五准教授の研究チームは令和4年度から加わっています。

講演者と参加者での集合写真。テレビモニター右に立っているのが理学研究院 角五 彰 准教授

プロジェクトの研究テーマは、「スケール横断的なアクティブマターの動作原理解明とそれに基づく新物質の創出」です。アクティブマターとは、自ら動く力を持つものや現象を指す言葉です。私たちを含む動物はもちろん、細胞やコロイド粒子など、その種類やサイズは多岐に渡ります。こうしたアクティブマターは多数集まって群れをつくることで、秩序的な動きをしたり、外敵から身を守ったり、少ない力で移動したりと、単体では持ち得なかった新たな機能を生み出す場合があります。イワシのトルネードや渡り鳥の大群での飛来、細胞が集団で同じ方向に移動する現象などがその例です。角五准教授らは、アクティブマターが群れを成して機能し始める原理やプロセスを明らかにし、最終的にはアクティブマターを人工的に一からつくることを目標としています。

イワシのトルネード。群れを成してまるで一つの生き物のように泳ぐ

これまで角五准教授一研究者としては、「生体分子モーター」を通したアクティブマターの研究に取り組んできました。生体分子モーターもアクティブマターの一つで、主にタンパク質から成り、細胞内において物質輸送などの役割を担っています。そして、集まって協調的に働くことで、細胞運動や筋収縮といった生命現象に欠かせない多用な機能を生み出しています。角五准教授は、生体分子モーターを駆動力とした分子ロボットの開発に世界で初めて成功しました。このロボットは、自発的に群れをつくって集団で物を運びます。単体で働くよりも、輸送効率は最大5倍、積荷サイズは10倍アップしたと角五准教授は言います。

生体分子モーターのイラスト。直径約25mmの筒状の繊維タンパクの上を、別のタンパク質が2足歩行で移動することにより、細胞内の物質(イラスト上の青い球体)輸送を担っている

今回のプロジェクトチームは、角五准教授をはじめ、本学の理学研究院 景山 義之 助教、電子科学研究所 西上 幸範 助教、北極域研究センター ポドリスキ・エヴゲニ 准教授、そして、東京理科大学 住野 豊 准教授、東京工業大学 グットマン・グレゴリー・スペンス 助教の6名で構成され、化学・高分子科学・生物学・複雑系科学・非線形物理学・情報科学といったそれぞれの専門分野からアプローチすることで、アクティブマターについて幅広いスケールで理解を深めようとしています。

本学のプロジェクトメンバーの役割を示した図。アクティブマターをミクロからマクロまでスケール横断的に理解する(図提供:角五 彰)
分子の集合体でアクティブマターをつくり出している、理学研究院 景山 義之助教
生体分子モーターの集団について調べている、角五准教授
細菌や原生生物などの単細胞生物(アメーバやゾウリムシなど)が専門で、プロジェクトではそれらのコロニーという観点から研究を進めていく電子科学研究所 西上幸範助教
北極の海に生息するクジラの仲間「イッカク」などの海洋生物の群れについて調査している、北極域研究センター ポドリスキ・エヴゲニ准教授(撮影:広報課 学術国際広報担当)

シンポジウムでは、プロジェクトメンバー6名に加え、九州大学 井上 大介 助教が最新の研究成果を発表しました。24名の学生や関係者が参加し、ディスカッションも活発に行われるなど、これからの活動に向けて好調なスタートとなりました。

(創成研究機構 研究広報担当 菊池 優)

関連リンク

創成特定研究事業 プロジェクト紹介ページ

「スケール横断的なアクティブマターの動作原理解明とそれに基づく新物質の創出」ウェブサイト