社会、科学技術と文化理論の連関の批判的研究 Critical Studies of Humanities on the Interface between Society and Science-Technology

【流動研究部門】広域文化系

高幣 秀知教授
元)創成科学研究機構

ナノテクノロジーが象徴するように、技術の進歩とともに、よりミクロの世界の現象の解明、それらの現象を利用した機能の発見と制御が求められるようになっている。ミクロの世界を支配する物理法則は量子力学である。我々が主として用いる手法は、「第一原理分子動力学法」と呼ばれており、電子の量子力学的振る舞いを調べることを出発点として、無機・有機物質や生体の物理・化学的性質の解明と予測に取り組んでいる。図1は、第一原理分子動力学法での作業の流れを示す。

一見してのとおり、こうした事態の把握と脱却への指針は、決して平明でも容易でもない。しかも他方では同時にまた、さらに新しい類の野蛮、狂気と暴力との連結が、マクロのレヴェルでもミクロのレヴェルでも、なお増殖しているかにみえる。まさにここに、『啓蒙の弁証法』に埋めこまれた概念装置を精錬しなおし、文明化された野蛮と解放への潜勢力とが逆説的に重畳する様相を究明するという課題、本研究プロジェクトの主題が成立する。われわれのプロジェクトは、近代からこの現代にわたる思考の歴史のうちに「批判理論」を位置づけ解読するという基礎的作業を背景として、同時に並行して展開されるべき三つの問題次元にあいわたって設定されている。

  1. 自然と社会。愚鈍であるということ、そのことはただちに危険を意味するものではない。愚鈍が狂気へと変形され、それに見合ったという意味で<合理的>な手段と連接されるときはじめて、暴力が発動する。社会的再生産の手段体系としての技術・科学が、再帰的に社会・自然に関係する生活過程の諸場面において既に、無数ともいうほかない病理的な現象が発現している。2001年ようやく発足した「科学技術社会論学会」においては、欧米のこれまでの「STS論」などを越える水準の研究が要求されているところである。
  2. 社会と文化。「グローバリゼイション」のなかでの多様な文化的潮流のうち、われわれがひとまず着目するのは、欧州におけるEU憲法制定へと迫ろうとする動向であり、それに対応して東アジア共通法への展望を開こうとしつつある「東アジア法哲学会」結成への志向である。そのための国際ワークショップが、 2003年3月、この北海道大学において開催されたばかりである。
  3. 新しい文化理論への方向付けのためには、ここに例示したような文化と社会、社会と科学・技術への総体的な顧慮が必須であると考えられる。創成科学研究機構を拠点として発信されるこうした理念にたいしては既に、ドイツ・フランクフルト大学哲学学院アクセル・ホネット教授、韓国ソウル大学法学部韓相震教授等が研究協力体制にはいっていることを、記しておきたい。

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