時空間制御光で操るトポロジカル物性

【流動研究部門】ナノテクノロジー・材料系

戸田 泰則 准教授
創成研究機構 研究部

トポロジカル光物性の探索

ナノテクノロジーはサイズと次元性に起因した電子状態の変化を上手に利用して、物質の新しい機能を取り出しています(潜在的な機能を顕在化しています)。ところでナノ物質にはつながり方(トポロジー)に特徴を持つ物質群があることをご存知でしょうか。このトポロジカル物質は、とくに結晶全体で秩序を形成する電子集団をもつ結晶で、特徴的な変化をもたらすことが予想されています。本研究では超短パルスレーザーと呼ばれるストロボ光を使って、物質中の電子および電子集団の運動を実時間で観察しています。とくに結晶の大局的トポロジーの違いがもたらす電子状態の変化に着目し、レーザーの優れた特徴を利用することで、新しい物質機能の発現を探っています。

図1に示すのは、電荷密度波物質と呼ばれる結晶の光応答を測定した結果です。ここで示しているのはリング結晶で観測された光応答で、横軸は時間、縦軸は反射率の変化を表します。電荷密度波は低次元金属においてよく観測され、電子がお互いに秩序を保ちながら空間上で粗密の分布を形成しています。このとき電子はフェルミ波数で決定される周期で分布しており、そのことがフェルミ面でバンドギャップを形成することに対応しています。つまり、電荷密度波を生じることで、金属から半導体に相転移が起こっています。光応答の時間変化は、このバンドギャップを超えて励起された電子が、もとの平衡状態へと緩和する過程を反映しています。

T=60K付近に見られる急激な緩和時間の変化は、半導体と金属の間の相転移温度に対応しています。この相転移温度近傍で二つの結晶の緩和時間を比べると、著しい違いが観測されます。図2に示すのはリング結晶と針状結晶の緩和時間を温度に対してプロットした結果です。針状結晶の緩和時間は、相転移温度付近で発散的に変化している様子が確認できます。これは一次元鎖間で3次元的な秩序を形成していることを意味しています。各結晶における緩和時間の温度特性の違いは、リング結晶が3次元的な秩序を形成し難いことを反映していると考えることができます。各試料において電子は一次元的に秩序を形成していますが、リング結晶では、この方向が周回軸方向に対応します。つまりリング結晶の電荷密度波は閉じたループ上に存在しています。そのため、異なる半径上に存在する電荷密度波は各一次元鎖間でクーロン反発を避けることができないのです。

窒化物半導体の非線形光計測

本研究ではフェムト秒光パルスを使った新しい半導体計測技術の開発を行います。ここでは非線形光学応答を利用した高感度歪計測を紹介します。光デバイスで用いられるエピタキシャル薄膜結晶には、基板との熱膨張係数差や格子不整合のために歪や欠陥が生じやすいことが知られています。歪や欠陥のもたらす光学異方性の大きさ、方向を高感度に測定することにより、期待されるデバイス性能を得るための薄膜評価が可能となります。

図は一軸歪を内包した窒化ガリウム薄膜の四光波混合分光による光回折スペクトルマップです。窒化ガリウム(GaN)は青色半導体レーザーの主要材料であり、その物性計測は量産化や高効率化を目指すうえで重要な役割を果たします。光パルスを使った四光波混合分光は、異なる波数ベクトルをもつ二つの光パルスを結晶表面で焦点をあわせるように照射して観測されます。このとき光パルスによって生じる分極が位相情報を保持していれば、二つのコヒーレントな分極が回折格子を形成し、そこから放射される回折光を確認することができます。その強度は分極の振動子強度の4乗に比例し、過渡応答から位相緩和の時間T2を調べることができます。ここでは回折光を分光することで励起子分極のスペクトルを観察しています。

図の縦軸は結晶方位に対する偏光角度を示しており、スペクトル強度とピークが変化していることが確認できます。強度変化は分極振動子の偏りを反映しており、面内の一軸歪が存在していることが分かります。この強度変化は、偏光度に着目すると線形分光の約10倍の変化に相当し、歪を反映した信号の感度増強が実現されています。また同時にエネルギーの微小なシフトが観測されており、その分裂幅から歪の大きさを定量的に議論できます。この結果は、あたかもX線回折と同等の結晶解析を光で実現したことに相当します。

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