生体に学び、組織を再生するナノバイオ技術から高度医療社会へ

【特定研究部門】生命系

田中 順三 教授
創成科学研究機構

生体組織は無機物や有機物の分子レベルでの高次な階層構造により創られていて、地球上で生活するために必須な機能を持っている。

例えば、プロコラーゲンは細胞内で作られてから細胞外へ放出され、自発的な組織の形成すなわち自己組織化を起こし、コラーゲン繊維を形成する。

このようにして形成された自己組織化体は、生体内における材料(細胞外マトリックス)の能動的および受動的機能を発現するために重要であると考えられており、これらの高次構造を再構築することで高機能な生体材料が創製できると考えられる。

しかし、これら素材の自己組織化は実際には大変複雑な過程により成されており、生体のもつ組織と類似した構造を作り出すためには、イオン結合・共有結合・水素結合や他の弱い結合の競争・協調によって制御されている界面相互作用の形成過程を理解し、材料設計に応用することが大切である。

魚のウロコから角膜へ

硬骨魚類のウロコはカルシウム欠損型水酸アパタイトと細胞外マトリックス(I型コラーゲン等)で形成されている。内層である繊維層は一方向に並んだコラーゲン繊維が90度ずつ回転しながら互い違いに規則正しく整列し、平板状構造(ベニヤ板構造)を作っている。この様な高次構造は、細胞の働きの他に材料同士の自己組織化作用によって作られると考えられる。特に、内層の石灰化部分ではコラーゲン繊維と平行にアパタイト結晶のc軸が整列していて、バイオミネラルであるアパタイトとコラーゲンの相互作用が高次構造に大きな影響を与えている可能性がある。アパタイトとコラーゲンの自己組織化によって、この3次元構造を再構築できれば、3次元構造がウロコと極めて似ている目の角膜実質部の再生材料に応用できる。

カニの腱から靱帯へ

カニの甲羅や腱はキチンという多糖類からできている。キチンは甲羅では無秩序に並んでいるが、腱では繊維が一方向に並んだ配向構造を取っている。また、甲羅の無機成分は炭酸カルシウムであるが、腱ではアパタイトであり、アパタイトとキチンの自己組織化が力学刺激同様に腱の秩序だった構造を形作っていると考えられる。この様な配向構造は繊維方向での引っ張り強度に優れ、ヒトの靱帯や腱を再生する材料に応用できると期待されるが、カニの腱そのものの応用では実用的な長さが得られないため、人工的にこの配向構造を再現する必要がある。そこで、生体親和性も考慮に入れ、キチンから作ったキトサンとアパタイトの自己組織化を利用して高強度の3次元配向構造体を作製し、人工靱帯への応用を試みる。

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