大規模データから新発見へつなげたい!-機械学習で科学的研究のプロセスを自動化する-

情報科学研究科 瀧川一学

情報科学研究科 准教授瀧川 一学 TAKIGAWA Ichigaku

プロフィール

1999年に北海道大学工学部を卒業。2004年北海道大学大学院工学研究科博士後期課程を修了し、同年、北海道大学情報科学研究科博士研究員 (COE)を務める。2005年から2011年まで京都大学化学研究所にて助教として勤務。2010年にボストン大学バイオインフォマティクスプログラムの客員研究員として渡米。帰国後は北海道大学創成研究機構の特任助教(テニュアトラック)を務め、2014年より現職。

大量データからの効率的な宝探しを!
分野を超えた知識獲得に挑む瀧川先生の挑戦

「機械学習」という言葉を聞いたことはありますか?実は、皆さんの身の回りにあるパソコン、デジタルカメラなどにも搭載されている技術です。そんな技術を使って、たくさんの研究者による膨大な量の研究データの中から、社会の役に立つ情報を効率よく発見しようという挑戦があります。瀧川先生にお話を伺いました。

一人の勘と経験だけでは、追いつけない現状がある


研究室の定例ランチミーティングの様子です。

今回は、機械学習を科学研究に応用する取り組みに挑戦したいと思います。中でも、存在する可能性のある膨大な数の化学物質の中から、役に立つ化学物質を機械学習の力で予測することを目指しています。

この研究は科学研究の発展に貢献できるもの。例えば、花粉症は発症する仕組みが比較的シンプルなので、既に確立したやり方で薬を開発できたりします。しかしこれが「がん細胞をやっつけたい」となるとそうはいきません。がんが発症する仕組みは非常に複雑なので、関係する多数の分子機能を調整できるような物質でないと抗がん剤にはなりえません。しかしそのような複雑な条件を満たす物質を研究者の勘と経験(と根性)で探すのは絶望的に大変な作業なのです。よく科学論文誌のディスカッションで掲載されているんですけど、製薬会社は年々開発費を上げているのにも関わらず、発見できる新規物質は減っているそうです。複雑な要件を満たす物質を見つけるのは、それだけ難しくなっているということなんです。

現在、世界中の研究者が計測した様々なデータが次々に公開されていますし、発表される科学論文や知見の数も飛躍的に増加していて、人間が今までのやり方で活用できるキャパシティを超えている状態です。そのデータを機械学習で解析することで、有効な化学物質の探索を飛躍的に効率化させることが可能になるのです。

化学物質の探索から、分野を超えて

私の研究室では、有機低分子の大量のデータから医薬品開発の近道を見つけるために、大規模なデータから知識を獲得する技術を研究しています。ただ、この技術は医薬品開発だけに役立てるのではなく、もっと幅広い目的に応用することが可能です。同じような数学的な根拠で成り立つ範囲だったら分野を超えて使える技術に成りうる。そのような汎用的な技術をコンピュータプログラムに落とし込むところまで私達の研究室でやりたいんです。

このように、数学的な根拠がある抽象的な対象に使うことができる科学を、我々は技法、技巧の意味で「アート」と呼んでいて、役に立つだけでなく、多様な課題に対して同じやり方で解決する「美しさ」を持った技術を追求しています。

学生のため、分野の発展のため

私が今取り組んでいる研究の多くは科学研究費で賄っています。しかし、研究室の運営に使用するための大学からの運営費は減少傾向にあります。そこで、皆さんからいただいた寄附は、学生たちの研究環境の整備や、次の研究課題の発見のために活用したいと考えています。

有難いことに、私の研究室を志望する学生さんは年々増えています。ですが、運営費は減る一方なので、実験にかかる計算機の購入や借用、学会での発表や聴講、専門書の購入を十分に賄えません。非常に厳しい状況にありますが、本当にやる気があって勉強したい学生には環境を提供したいんです。

この機械学習という分野は今後様々な分野で応用されていきます。学生さんが卒業して社会に出た時にも必要とされる分野ですし、社会に貢献できる人材を育てることができる研究室だと思うんです。そして、この機械学習に関する分野を発展させるためにも、次世代の教育は不可欠です。そのために皆さんの寄附金を活用したいと考えております。

「試行錯誤」は未来への種まき


ホワイトボードには学生とのディスカッションの痕跡がびっしり。

基本的に研究はすぐには上手くいかないことが多いので、いろいろな可能性を試すことが大事です。科学研究費のように特定の課題に沿った研究に取り組むだけではなく、探索的な試行錯誤は継続的にやらないと、研究する内容が枯渇してしまいます。そのために今の内から種まきをしたいのです。

面白いテーマはたくさんあるのですが、「試す」こと自体にお金がかかる。新しい技術が出たから試してみようとか、この技術とこの技術を組み合わせたら面白いんじゃないかとか。そのような特定の課題に拠らない発想から生まれるアイデアを試すことに、ご支援を頂ければと考えております。よろしくお願いいたします。

先生のプライベート

子どもの頃はどのようなことに興味を持っていましたか?
得意な科目は国語と英語で、図工も好きでしたね。実は理科が苦手で、大人になってから好きになりました。今は情報技術の分野にいるので、わからないものですね。
現在の研究室の雰囲気を教えてください。
研究室は二拠点あり研究室のメンバーは行き来しながら自由な雰囲気で活動しています。ミーティングや定例ゼミでコミュニケーションをとる機会がある一方で、自主勉強会やプログラミングコンテストの参加なども活発に行われています。
これまでの研究者人生で思い出に残るエピソードは?
大学院の学生のころ、論文で何度も名前をみていた世界第一線の研究者たちを直接目にする大きな機会が2度ありました。本人達から聞くお話にとても影響を受けましたし、非常に解読に手間のかかる理論論文などでも、何だか親密な気持ちで研究に取り組めるようになったと思います。
休日はどのようにリフレッシュをしていますか?
昨年生まれた娘と遊ぶのが最近のリフレッシュです。なので、休日は家族で出かけたりすることも多いですね。