がん予防を実現させたい!-正常細胞とがん細胞の境界に迫る-

遺伝子病制御研究所 藤田恭之

遺伝子病制御研究所分子腫瘍分野 教授藤田 恭之 FUJITA Yasuyuki

プロフィール

1965年生まれ。1990年に京都大学医学部を卒業。1993年まで舞鶴市民病院に勤務し、京都大学医学部老年科、大学院医学博士課程で学ぶ。1994年大阪大学医学部分子生理化学教室、1997年ベルリンのマックス・デルブリュック分子医学センターでポスドク、2002年ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのMRC分子生物学研究所にてグループリーダーを務める。2010年より現職。

どんな発見も世界初!
前例のないがん研究へ挑む藤田先生の挑戦。

人間ががんになるプロセス、つまり、正常細胞ががん細胞へと変化する過程は謎に包まれていました。藤田先生は初期状態のがんを観察できれば、この謎に迫ることができ、がんの予防にもつながると考えました。実はこれ、世界でも例のない新しい研究なのです。そんな藤田先生の挑戦に迫ります。

タブーに挑戦!がん予防研究の確立に挑む


研究室での研究風景

私の研究室では、「細胞競合」という現象を研究し、がんの予防や診断につなげるための取り組みをしています。現在の医学ではある程度進行したがん細胞しか見つけられないのですが、私達の研究で超初期段階のがん細胞の発見に貢献できると考えています。

実はがん予防に関する研究はあまり進んでいませんし、科学研究費も降りにくい状況にあります。というのも、がんの「予防」というテーマは現在の科学界でもタブー視されている分野だからです。例えば、がん予防を謳う食品があるとすると、その効果を検証するためには数十年食べ続けていただいて、食べている人とそうでない人を比較するしかない。しかし、がん細胞の超初期段階を診断する術がないので、既にある超初期段階のがん細胞が消えたとか、新しくがん細胞ができなくなったとかを検証することができないのです。そのため、科学的な実証が難しいがん予防の分野はあまり研究が盛んにならず、これまでタブー視されてきました。正常細胞ががん細胞になる過程はまさにブラックボックス。私達の研究はそのブラックボックスへ切り込み、タブー視されてきた分野への挑戦でもあります。

すべては、がんに苦しむ患者さんのために

あるアメリカの有名な女優さんが、かなり高い確率で乳がんになる可能性があるとの診断を受け、両方の乳房を切除した、ということがありました。がんになるかどうかわからない組織を切除することになるのですが、かなり高い確率と言われればどうでしょう。難しい判断を迫られますよね。この話も、もし超初期段階のがん細胞を診断できる術があれば、「ここにがんがある!」と早期診断につなげることができますし、予防的な治療として、科学的に裏付けされたがんの予防薬、治療薬の開発が可能になり、乳房を切除する必要もありませんでした。

現在、日本では2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなっています。この研究が、がんの撲滅につながる。そう考えると、何としてもこの研究を成功させ、臨床の現場へつなげていきたいという思いでいっぱいです。医学の研究者として、「がんで苦しむ患者さんを少しでも減らしたい」という強い願いを胸に抱きながら、私達は日夜研究を続けています。

初めて、自分の夢が動き出した日

初めて細胞競合というテーマで研究に取り組んだのは、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで自分の研究室を持った時。この研究には先行研究がほとんどなかったので、研究を始めようにも、まずアイデアを実験に移すための環境作りに非常に時間がかかりました。これまでのがん研究では正常細胞とがん細胞を別々に培養して、それぞれの違いを比較するというものでした。しかし、私がやりたいのは正常細胞の集団の中にがん細胞がいたら、果たしてどうなるかというもの。これがなかなか難しく、正常細胞とがん細胞を混ぜ、それらの細胞間で生じる現象を観察できるようになるまでに8か月もかかってしまいました。やはり新しく、どうなるか分からない研究ですので、研究室のメンバーを説得して協力してもらうのにも苦労しました。8か月間、周囲からネガティブなコメントをたくさんもらいましたが、それに打ち勝って自分のアイデアを実現させることに集中してきました。

だからこそ、初めて細胞競合を確認できた日のことは、今でも忘れられません。前日の夜に実験を仕込んでおき、ビデオカメラで撮影し、翌朝チェックしました。すると、正常細胞ががん細胞を押し出し、体外へ放出される方向へ排除することを確認できたんです。それは、ずっと見たくてたまらなかった光景でしたし、自分のアイデアが正しかったことを証明できた瞬間でした。それから10年経ち細胞競合の研究は着実に進展してきましたが、あれがまさに新たな研究分野が世界に誕生した日でしたね。

世界の先陣を切って挑戦を続けていきたい


研究室の学生たちと。学生同士も日々切磋琢磨しています。

製薬会社や厚生労働省の方とがんの予防的治療法について話していると、「今の治験のシステムでは難しいですね」「5年後の製薬につなげることはできますか」とネガティブなコメントをもらいます。残念ながら、短いスパンで成果が挙がるような研究でなければ、現在の日本では臨床につなげることが難しいですし、研究費が降りにくい。私達が進めるがん予防研究は非常に新しい分野ですし、研究期間も長期にわたります。このような研究は、たった3年から5年で治療法の確立にまで至るのが非常に難しいのです。ただ逆に考えると、この研究は製薬会社が取り組むには非常に難しい。私達が長期的な視野で研究に取り組み確立させることで、将来的に製薬会社が参入し、新たなマーケットになるような役割を果たせたらと考えています。

一方、欧米では超初期段階のがん細胞の診断法、予防的治療法に関する研究に、最近かなり巨額の予算が降りています。せっかく私達の研究室が世界でもこの研究分野のトップを走っているのに、予算面でリードされてしまうとそのまま開発もリードされてしまいます。そんなの、悔しいじゃないですか。

何とか日本がイニシアティブをとって研究を進めていきたい。挑戦を続けていきたい。でもその研究費が足りない。そこで皆様にご支援を頂き、一緒に夢を追っていきたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

先生のプライベート

子どもの頃はどのようなことに興味を持っていましたか?
とにかく算数が大好きでした。あとは毎日ソフトボールや野球に明け暮れていました。ちなみに当時は大の阪神ファンでした(今も)。
研究者になろうと思ったきっかけは何ですか?
母親が与えてくれた伝記の影響で、子どもの頃から人の役に立つ人間になりたいと思っていました。その中でも、病気を治す人になりたいと思い、がん研究に取り組んできました。
学生や若い研究者を指導する際に何を心がけていますか?
なるべく、若い研究者の自ら出てくるアイデアを大切にしたいと思っています。
休日はどのようにリフレッシュをしていますか?
休日はジョギング、バドミントン、野球をするなど、運動をするようにしています。頭もすっきりしますし、身体を動かすことが好きなんです。