植物から安全・高性能な
医用材料を開発
植物由来の原料を利用した新しい医療用ゲル材料の開発
〜より安全な外科用接着剤、止血剤を目指して〜
佐藤敏文(さとうとしふみ)
創成研究機構 研究部・流動研究部門 ナノテクノロジー・材料系
(在籍期間 平成14年12月〜平成19年3月)
大学院工学研究科 准教授
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こんにちは お飲み物は何がよろしいですか?
え〜と、紅茶でお願いします。
佐藤さんはどんな研究をされているのですか?
天然の糖鎖(多糖類)や、化学合成した糖鎖を利用して、高性能で安全な医用材料(医療材料や化粧品等)を開発しています。
糖鎖とは何ですか?
糖鎖とは、単糖と呼ばれる糖の分子が鎖のようにたくさんつながっている分子のことで、天然に多く存在しています。たとえば、ブドウ糖(グルコース)がたくさんつながったものには、でんぷん(アミロース・図1)や、植物の細胞壁の主成分であるセルロースがあります。他には、カニの殻などに含まれるキチン・キトサンも糖鎖なんですよ。また人体では、細胞表面に存在する糖鎖が、タンパク質と結合して細胞の働きを変化させることなども知られています。
図1 でんぷん(アミロース) の構造式
天然以外に化学合成した糖鎖も研究に利用するとのことでしたが、どのようにして糖鎖を化学合成するのですか?
たとえば木材(廃材)を熱分解する事によって出来た糖をつなげ(重合し)て作ることができます。そのつなげ方によって直鎖状、分岐状(図2)、網目(ゼリー)状など様々な形の糖鎖を合成することができます。糖鎖は、構成する単糖の構造が変わったり、大きさ(分子量)や形が変わったりすると全く異なる性質を示します。
図2 分岐状多糖の構造式
構成する単糖の構造や、数が一緒でもつながり方によって 違う性質を示しことが知られている(例えば分岐状に比べ 直鎖状の多糖は糖鎖同士がからまりやすく、溶液にした 時の粘度が高い)。
僕達は、[1]“単糖の構造”と[2]“糖鎖の大きさや形状”の組み合わせを選び、[3]場合によっては糖以外の高分子も糖鎖に組み込むことによって、いろいろな種類の糖鎖を作る技術を持っています。その技術によって、水に溶けやすい、溶けにくい、かたい、やわらかい、ある分子を取り込む、取り込まない・・・など様々な性質を糖鎖に持たせることができます。期待通りの性質を持った糖鎖が出来るまで、[1]、[2]、[3]を少しずつ変えながら糖鎖を作り続ける毎日です。
医用材料とは具体的にはどのようなものですか?
僕達が目標としている医用材料は、手術の時などに使用される“止血剤”や、“外科用接着剤”、“人工血管のコーティング材”、“化粧品”などのことです。 現在、そういった材料の多くが、ヒトや動物由来の原料から製造されています。たとえば、血液製剤フィブリノゲンや、牛や豚の骨や皮からとったゼラチン、コラーゲン、鳥のトサカからとったヒアルロン酸などです。
血液製剤とはヒトの血液を原料とした医薬品のことで、C型肝炎などの感染を引き起こす可能性があるとして話題となりましたね。また牛や豚、鳥由来の原料はBSEや鳥インフルエンザなど人獣共通感染症の不安があります。
現在これらの材料に代替するものはまだありません。ですから、医療の分野では、ヒトや動物由来の原料を用いない材料の開発が、必要とされているのです。そこで、僕は植物由来の糖鎖を原料とした医用材料の開発に取り組むことにしました。
糖鎖を利用するメリットは何ですか?
まず、廃材など簡単に入手できる原料から合成できるので、実用化する際にコスト面で有利です。それから、原料や生成方法を変えることで、物理的・化学的性質の異なるさまざまな糖鎖をつくることができます。さらに、分解後は単糖に戻るので生物学的にも安全だと考えられます。
また、医用材料は、人体への影響も考慮しなくてはなりません。糖鎖は細胞表面にも存在するくらいですから、その他のプラスチック材料 高分子 or材料よりも、人体への適合性が期待できると思います。
現在、どこまで研究が進んでいるのでしょうか?
人工血管のコーティング材については、動物実験等での評価を終えて、臨床試験(病院でのテスト利用)の準備中です。その他の材料についても分子設計⇔評価を繰り返し、開発が進んでいます。非常に性能が良い材料でも医療材料として認可されるまでには多くのハードルを乗り越える必要があり、時間がかかります。
実用化されるのが待ち遠しいですね。
はい。感染の心配がなく、高性能な医療材料や化粧品などが開発されれば、日本だけではなく、世界中から需要があることは間違いありません。その日を楽しみに待っていてください!