カーボンナノチューブを操る
カーボンナノチューブの単分散・精密配向及び産業応用に関する基礎研究
古月文志(ふうげつぶんし)
創成研究機構 研究部・流動研究部門 ナノテクノロジー・材料系
(在籍期間 平成17年10月〜平成19年3月)
大学院地球環境科学研究科 教授
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こんにちは、お飲み物は何がよろしいですか?
そうですねぇ、レモンティがいいかな。
古月さんの研究は「カーボンナノチューブ」に関係されてますが、どのような研究なのですか?
カーボンナノチューブは最近注目されている人工素材のひとつです。これを大量に作る技術は既に確立していますが、できたとしてもカーボンナノチューブ同士がからまり合い、そのまま固まった状態の製品です。このままだと精密な加工品には使えません。そこで私は、カーボンナノチューブの特性を最大限に活せるようにと、「からまり合ったチューブをほぐす」技術を研究しています。
カーボンナノチューブはとても細いのでは?
網目状の炭素(カーボン)が連なってできた直径が数ナノメートル、長さが数10ミクロンという細長い円筒(チューブ)のことです。もちろん肉眼では見えません。特殊な電子顕微鏡でやっと見えるような細さです。【参考 1mm(ミリメートル)=1000μm(マイクロメートル)=1,000,000nm(ナノメートル)】
↑炭素が規則正しくつながってチューブ状になっている
【図・Wikipedia カーボンナノチューブより引用】
細いチューブがからまっている状態をほぐすのですね?
これまでにも「ほぐす」技術はいくつかありましたが、いずれも短くちぎれてしまったり、時間やコストがかかるというものでした。ですから、精密さを要求する製品を開発したい産業界からは、もっと長いままほぐせる技術が切望されていたんです。そこで私は、長いまま、安く、早くほぐせる「溶液」を開発しました。
ちぎれないようにするにはどうしたのですか?
カーボンナノチューブの炭素同士は「共有結合力」という力によってつながっています。そしてカーボンナノチューブ同士は「ファン・デル・ワールス力」という力で集まりからまっています。そして「ちぎれる」という現象が起きるのは、ほぐす時に共有結合力よりも強い力でひっぱってしまうからです。
ですから「共有結合力」よりも小さく、「ファン・デル・ワールス力」よりも大きな力でほぐし、整然と並べてくれその状態を保ってくれる溶液があればよいと考えました。
そのようなちょうどいい溶液がつくれたのですか?
ヒントになったのは生体膜を構成している「ホスファチジルコリン」という物質です。
このホスファチジルコリンの頭と尾の部分では性質に特徴があります。頭の部分は水となじむ親水性で、同時に両性イオンというプラスとマイナスの電極をもっています。尾の部分は水となじまない疎水性です。これがお互いに磁石のようにくっ付き合い、自ずと疎水性の足の部分も並ぶことによって膜としての機能を持つのです。このような物質を人工的に化学合成してつくることができ、「両性イオン界面活性剤」と呼びます。
「両性イオン界面活性剤」は、このような一人二役の特性を生かして洗剤としても使われています。足の部分で汚れにくっつき、頭部の引き合う力でよごれを引き離し二度と汚れがもとに戻らないようにしています。
同様に足の部分がカーボンナノチューブ1本1本にくっつき、頭の部分がカーボンナノチューブごと整然と並ぼうとする強い力をもった溶液を探してみようと思いついたのです。
そして、チューブ内の炭素同士が引き合っている共有結合力よりも小さい力で、かつチューブ同士が引き合っているファン・デル・ワールス力よりも大きい力で、カーボンナノチューブをほぐすことのできるほどよい力を持った「両性イオン界面活性剤」を開発したのです。
時間やコストの問題も解決できたのですか?
はい、これまでのほぐす技術に比べて一度に大量に、しかも早く、そして安くできるようになりました。
両性イオン界面活性剤の溶液にチューブがからまったままの状態のカーボンナノチューブを入れて、なじませ、乾かすと、カーボンナノチューブがきれいに並んでシート状になった証拠に肉眼でもピカピカに見えます。もちろん電子顕微鏡で見ても、整然と並んでいるようすがわかります。乾かしてしまえば両性イオン界面活性剤がカーボンナノチューブの特性を邪魔することもありません。
こうしたカーボンナノチューブは、自動車の部品、解像度を極めた印刷ローラー、タッチパネル、太陽電池などへの応用が期待できます。実際に企業と連携して生産ラインに乗せようという計画も動き始めています。
大量に安く生産できることで、身近な生活にカーボンナノチューブが使われ始めるのはもうすぐですね。
そうですね。ですが、便利で大量に使われることはうれしいですが、人や環境に安全でなくてはならない。そこで、私はカーボンナノチューブの安全性についても研究し始めています。カーボンナノチューブは目には見えない小ささです。一度自然界に撒かれてしまえば回収することは不可能です。アスベストのような危険性はないのか、海や土壌に交ざっても生物に悪影響はないのかといったことを調べています。
科学技術を開発しつつ、その安全性を確かめることは研究者の使命だと思っています。
安全で画期的な技術を期待しています。ありがとうございました。