植物の受精の解明と育種への応用
試験管内受精による高等植物の受精・胚発生制御の分子プログラムの解明
星野洋一郎(ほしのよういちろう)
創成研究機構 研究部・流動研究部門・未踏系
(在籍期間 平成17年2月〜平成21年3月)
北方生物圏フィールド科学センター 助教
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星野さん、いらっしゃいませ、お飲み物は何にします?
えーっと、カフェオレください。
星野さんを北大の農場でよくお見かけしますが、どのような研究をされているんですか?
僕は、「植物の受精」を解明したいとずっと思っていて、今はアルストロメリアという北海道で多く生産される花とハスカップという果樹で育種(いくしゅ)の実験をしています。育種と言うのは一般的には品種改良のことを指します。
←観賞用として親しまれているアルストロメリア
植物には、動物の精子や卵(らん)のように精細胞と卵細胞がありますが、受精のメカニズムについてまだよくわかっていないことが多いのです。動物の場合は、精子と卵を体の外に取り出して来て受精をさせることができます。そして、そのプロセスは顕微鏡で見ることができるのです。
一方植物の場合、精細胞と卵細胞を生殖能力を失わないように取り出すことがたいへん困難です。取り出せたとしても受精させることもむずかしく、このことから植物の受精のプロセスを知ることは動物ほど進んでいませんでした。
精細胞と卵細胞が植物のどこにあるかはわかっているのですか。
それはわかっています。花粉が花のめしべの先端に付くと、花粉のひとつずつが発芽を始め花粉管となって管を伸ばします。そして、花粉の中ある精細胞がこの管によって花の“がく”近くにある子房(しぼう)に向かって運ばれていきます。

卵細胞は、花の“がく”近くの子房の中、胚珠(はいしゅ)のさらに中にひとつだけあります。胚珠がいくつもある植物は、ひとつひとつの胚珠にひとつの卵細胞が入っています。胚珠に到達した花粉管の中から精細胞が卵細胞に近づき受精して種子ができるのです。
大量の花粉が付いた場合はどうなるのですか?
大量の花粉が付いたときは、それぞれの花粉が細胞分裂して花粉管を伸ばし始め、先に卵細胞にたどり着いたものが受精できます。多いときは数百本にも及ぶ花粉管が一斉に卵細胞をめざすこともあります。
種(しゅ)の違う花粉が付いた場合は、花粉自体が細胞分裂をはじめません。
また、同じ種であっても花粉管が伸びなかったり、もしくは花粉管が途中で止まってしまう場合があります。このように受精に至らない生物同士を「不和合性である」と言います。反対に受精に至る生物同士を「和合性である」と言います。
バラとチューリップといった種が違えば不和合性であることは想像つくと思いますが、同じアストロメリアという種でも不和合性の関係のものがあるのです。私の研究のひとつはこの不和合性同士を受精させるというものです。
そのようなことができるのですか?
花粉管を伸ばさない、もしくは途中で止まってしまうということで受精しなかったわけですから、精細胞と卵細胞を取り出して来て、試験管の中で直接受精させられないかと考え、試してみています。アルストロメリアは同じ種の中で不和合性の関係が詳しく調べられつつあります。もし不和合性の壁を越えて受精できたならば、今までにない花の形をしたアルストロメリアを生み出すことができると考えています。
ハスカップについてはどのような研究なのですか?
←北海道の特産品としてジャムや菓子などに使われているハスカップ
植物の受精のもう一つの特徴は、「重複受精(ちょうふくじゅせい)」です。植物では、二つの精細胞が胚珠に入り、ひとつは卵細胞と受精して2倍体の胚になり、もうひとつが核(極核)を二つ含む中央細胞と受精して3倍体の胚乳(はいにゅう)になります。この受精のメカニズムを「重複受精」と呼んでいます。

胚は種子の中で芽を出すところで、胚の2倍体の遺伝子がそのまま次世代に受け継がれます。胚乳は胚が発芽するときの養分を蓄え、発芽の際にその役割を終え、3倍体の遺伝子は次世代に受け継がれません。
3倍体のハスカップはできたのですか?
はい、4年前に発芽させることができた3倍体のハスカップが今年は実をつけるまでに育っています。ハスカップはたくさんの実をつけるまでに10年から20年かかる植物ですので、これからが楽しみです。
このような研究を他の植物にも応用できれば、さらに品種改良の可能性が広がりそうですね。
私たちの生活を支える農業生産や環境問題への取り組みのためにも、品種改良によって植物の機能を利用することが必要だと考えています。そのためにも、植物の受精のメカニズムそのものを解明しながら、新しい育種技術の開発につなげていきたいと考えています。
今日はありがとうございました。