【流動研究部門】信濃 卓郎 准教授

信濃 卓郎 未踏系
100マイクロメートルの秘境 ~根の周りの世界~
Hundred micro meter unexplored world -The Rhizosphere-
信濃 卓郎准教授

創成科学研究機構・流動研究部門 未踏系

根圏?

聞き慣れない言葉だと思うが、植物の根の周りのわずか100マイクロメートル程度の領域を根圏と呼ぶ。この領域は、土壌と植物の接点の領域であり、植物からも土壌からも極めて強い影響を受けている。これまでも、根圏は重要であると認識はされてきたが、土壌という極めてヘテロな環境にあること、「土」の中という文字通りブラックボックスの中にあることが研究の進展を遅らせていた。そのため作物生産や土壌の研究者にとってこの領域はまさに秘境であると言える。例えば植物は土壌の状態に応じて有機酸や酵素などを根圏に分泌することが知られている。一方、根圏の土壌は植物からの働きかけによって周辺の土とは物理的、化学的に全く異なる性質を持つようになる。このような特殊な環境は実は微生物にとっても、「おいしい」環境であることが知られている。土壌中にはまだまだ人間に知られていない微生物がたくさん存在している。もちろん、植物にとって病気を発生させる菌もいるが、菌の中には植物に役立っている菌もある。有名な所では根粒菌や菌根菌というすでに市販されている微生物もあるが、まだまだ正体不明の有用菌がうようよとしている。例えば根粒菌のように植物に根粒というこぶを作って、その中に共生することをしなくても、根圏に住んでいて、根から放出される有機酸などを栄養にして窒素固定をして窒素を空気から取り込み、そのおこぼれを植物に与えているような半共生的な菌の存在も明らかになってきた。

 

 窒素を含まない培地を用いて、根圏に存在する微生物の中から窒素固定能を持つ微生物をスクリーニングした結果。シベリアのタイガに存在する湿原から採取した。極めて活発な成育が認められた。現在、これらの菌の特定とその窒素固定能の評価を進めている。

 

 植物からも根圏に積極的に働きかける。これはルーピンというマメ科の植物の根に生成されるクラスター根。有機酸や酵素を積極的に分泌して、植物自ら根圏環境を変化させようとすることが知られている。微生物がこのような状況でどのような変化を示しているのかに興味がもたれる。

 

根圏を介して、植物と微生物は積極的に作用し合っている。植物は土壌の中でどんどんと根を張り巡らせて養分を吸収するが、そのままの形態では植物が利用できないような土壌中の物質を植物の作用と、微生物の作用の共同作業によって利用可能な形態に変化させている現象が明らかになりつつある。そこで、植物にとって有効に機能していると考えられる根圏微生物を対象として、その役割を解明するのがテーマである。現在、食の安全性、環境・生態系の保全という観点からも植物や微生物の能力をもっと活用した新しい農業体系を構築することが必要になってきた。この研究はそのような農業技術にも直結した技術も提案できると期待される。