【流動研究部門】松岡 一郎 准教授

松岡 一郎 生命系
ニューロンの生と死 ~神経科学研究から医療への挑戦~
Life and death of neurons - From neurosceince to medicine
松岡 一郎准教授

創成科学研究機構・流動研究部門 生命系

 ヒトの設計図ともいわれる遺伝子ゲノムの全配列が明らかにされた現在、生命科学最後のフロンテイアの1つは、脳・神経系の形成機構とその機能の解明でしょう。これは現代高齢化社会において顕著となった種々の神経疾患の克服にもつながる重要なフィールドでもあります。

本研究プロジェクトでは、主に動物を用いた実験を通じてニューロン(神経細胞)の

  1. 新規タンパク質BRINPによる増殖・機能制御。
  2. 神経栄養因子による再生制御。
  3. 神経幹細胞からの分化制御。

よりなる3つの制御機構に注目し、これらの制御機構を包括的に理解することにより脳・神経系の形成・維持機構を明らかにし、その成果を医療へ応用することを目標としています。

 

神経特異的タンパク質ファミリー、BRINP

私達はこれまでに、既知のタンパク質とは構造上の類似性がほとんど無い新しいタンパク質ファミリー、BRINPを発見しました。3種類のBRINPは、中枢および末梢の分化した神経細胞に広くその発現が観察されます。BRINPは、その機能として細胞分裂を抑制する働きをするので、神経系の形成時にその神経細胞数を決定したり、分化・成熟した神経細胞が刺激に伴う活動によって不用意に分裂しないように監視したりしている可能性があります。また、ある種のガン化した細胞では、BRINPの発現が消失しており、がん抑制遺伝子としての機能も考えられます。今後、BRINPのタンパク質機能を詳しく調べることにより、神経系の形成や維持機構の基本原理を明らかにして脳腫瘍の形成を防げる可能性があります。

 

 

神経栄養因子の発現調節機構

 分化した神経細胞が生存し続けるためには、神経栄養因子と呼ばれる一群のタンパク質の働きが不可欠です。また神経栄養因子は、傷害を受けた神経細胞がその軸索を再生させるためにもが働きますし、神経細胞がその活動に伴って記憶や学習機能を発現させるためにも必要です。私達は、これまで、神経細胞の周辺にあって神経細胞の働きを助けているグリア細胞(例えばシュワン細胞)で,神経栄養因子が産生されるメカニズムを調べてきました。今後、傷害時の神経栄養因子の産生を増強したり、神経栄養因子の産生細胞を移植したりして、神経再生を促進したり神経細胞脱落性疾患の進行を抑制できる可能性があります。

 

神経幹細胞の分化機構

 神経幹細胞は、神経細胞を生み出す重要な前駆細胞です。分化した神経細胞はもはや分裂してその数を増やすことはできませんが、成体の神経系でも僅かながら残っている神経幹細胞が分裂を繰り返して徐々に神経細胞に分化しつつづけていることが最近明らかになってきており、注目されています。私達はこれまで、神経幹細胞の分化機構を調べてきました。また損傷を受けたラットの脊髄に私達が樹立した神経幹細胞株EG6細胞を移植すると、 EG6細胞は脊髄に生着・分化して排尿機能が回復することを見いだしています。今後このような研究を発展させることにより、私達ヒトにおいても傷害や疾患などにより失われた神経細胞を少しでも補って機能を回復させることも夢ではありません。