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疾患関連タンパク質構造解析ハブ_タイトル

【北海道大学】
姚 閔・前仲 勝実・稲垣 冬彦・田中 良和・尾瀬 農之・加藤 公児・黒木 喜美子・三國 新太郎
喜多 俊介

【塩野義製薬】
塩田 武司・山野 佳則・出口 昌志・沼田 義人・東野 賢一・吉田 裕・内藤 陽・武本 浩
井埜 章・松尾 健二


  • 疾患関連タンパク質構造解析ハブ
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本ハブでは、タンパク質の立体構造に基づいた創薬基盤の整備を目標とし、X線結晶構造解析、NMR法に基づくリガンド探索と機能探索にいたる一連のストリームラインの構築、構造―機能相関解析に基づく医薬品の探索研究を推進する。具体的な研究項目としては1)タンパク質の可溶化発現を含むX線結晶構造解析を利用した薬剤リード化合物の迅速探索システム開発、2)蛍光相互相関分光法を基礎としたタンパク質相互作用アッセイ系の開発、3)NMR法に基づく低分子医薬のスクリーニング法の開発、4)KIR免疫受容体に対する抗体医薬作成である。


1)X線結晶構造解析を利用した薬剤リード化合物の迅速探索システム開発
 Structure-Based Drug Design (SBDD:タンパク質立体構造に基づく創薬)は、ゲノム創薬にとって非常に重要であると認識されているが、同時に、個々の化合物に対する誘導適合への対応が不十分であることなどの問題点も指摘されている。この問題を克服するために、最近注目されている手法が、Fragment-Based Drug Design (FBDD)法である。これは、はじめに小さな阻害化合物を見つけ、それを最適化することにより、最良のリード化合物に到達しようとする手法である。小さな化合物はターゲットタンパク質の活性部位に適合しやすいので、大きな化合物から検索するよりも、最終的により活性の高いリード化合物が得られることが期待される。しかし、この方法を適用するためには、非常に多くのX線結晶構造解析を行う必要があり迅速な構造解析が必須である。我々は、タンパク質構造解析のための構造を全自動で精密化するソフトウェアLAFIREをFBDD法へ適用し,FBDD用の自動構造解析システムLAFIRE_FBDDを構築し、次世代ポストゲノム創薬ハブで開発される薬剤リード化合物の探索に供し、一般ユーザが利用できるようにWeb公開をしている。また、タンパク質構造からリガンド結合部位を予想するプログラムPOCASAを開発し、創薬ターゲットタンパク質へ適用し、タンパク質阻害剤をin silico探索するためのソフトウエアPOCASA_LSの開発を進めている。
 また、我々は結晶構造解析法を用いたSBDD/FBDDを実施するための構造解析の第一歩であるターゲットタンパク質の可溶化発現に注目し、大腸菌を用いて膜タンパク質とヒト由来タンパク質の可溶化発現系の開発も行っている。


FBDD

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2)蛍光相互相関分光法を基礎としたタンパク質相互作用アッセイ系の開発
 光イメージングの一つである蛍光相互相関分光法(FCCS)を基礎としたタンパク質の機能阻害化合物のスクリーニング系を確立する。新薬探索において低分子化合物とタンパク質のアフィニティを調べる方法としてはX線結晶構造解析やNMRに代表される強力な手法が存在する。一方で、化合物が結合した後、タンパク質が実際に機能を阻害されるかどうかを明らかにするためには、溶液状態でタンパク質が機能する様子を解析することが必要である。FCCSは溶液中においてタンパク質−タンパク質間あるいはタンパク質−リガンド間の相互作用を定量的かつ高感度に検出可能な点に特長を持つ。また、低濃度・少量のタンパク質溶液で測定可能であり、測定時間は1サンプル数十秒程度とスループットが良い点もアッセイ系としての利点である。我々はFCCSを利用することで目的タンパク質の機能すなわちタンパク質の結合・解離を検出し、化合物ライブラリを用いた初期スクリーニングで結合もしくは解離を阻害する化合物を見出すアッセイ系の開発を進めている。併せて、本ハブの成果として見出された低分子化合物からFBDD法によって合成展開された化合物群の阻害能を定量的に解析しフィードバックするサイクルを構築する。


FCCS

FCCSの装置概念図とタンパク質相互作用解析例


3)NMR法に基づく低分子医薬のスクリーニング法の開発
 薬剤探索にはin silicoスクリーニングやHTS法等が広く行われているが、ヒット化合物を見出す確率は低い。結合親和性の低い段階では、目的部位に結合する化合物の同定が困難なことおよび対象とするタンパク質、リガンド双方が構造変化を起こして結合する可能性があるためである。NMR法は弱い相互作用を鋭敏に検出できること、リガンド結合に伴うタンパク質、リガンド双方の構造変化を検出できる点で、リード化合物の初期スクリーニングに優れた手法と言える。本研究では、これらのNMR法の特徴を生かし、当研究室で開発を行っている常磁性ランタノイドプローブ法を適用した新たなリード化合物探索法を開発するとともに、抗ガン剤、抗菌薬の探索を進める。
 常磁性ランタノイドイオンは近傍の測定核に相対配置を反映したシフトあるいは線幅の増大を誘起する。したがって、目的とするリガンド結合部位近傍に常磁性ランタノイドイオンを固定することにより、リガンド結合の有無および結合により誘起されるリガンド、タンパク質双方の構造変化を検知することができる。我々は常磁性ランタノイドイオンの特徴を生かし、線幅の増大を利用した結合リガンドの迅速なスクリーニング系、およびシフト情報を利用したリガンド-タンパク質複合体の構造を決定する手法の確立を目的として研究を進めている。今回は、常磁性ランタノイドイオンを用いてGrb2 SH2ドメインの結合リガンドの探索を行った。まず、Gd3+による線幅の増大を利用してGrb2 SH2に結合する化合物のスクリーニングを行った。その結果、10種類の混合物より一つの化合物が結合リガンドとして同定できた。次いで、SH2ドメインに結合した結合リガンドの誘起シフトより、リガンドの結合位置を決定した。結合親和性の低いスクリーニングの初期の段階で、リガンドの結合部位および構造を決定できるのは本方法の最大の特徴である。


NMR法に基づく低分子医薬のスクリーニング法の開発

4)KIR免疫受容体に対する抗体医薬作成
 免疫細胞表面には多くの受容体が存在し、これらがそれぞれ特異的なリガンドを認識する事で巧妙に免疫系の恒常性を維持している。しかし、このような免疫系細胞表面受容体をターゲットに免疫病や感染症に対する治療薬の開発では、蛋白質―蛋白質相互作用のフラットな界面が阻害薬のターゲットとなるため、低分子化合物の創薬開発が難しいと言える。そこで、本研究では、免疫細胞表面受容体に対する特異的抗体医薬品を立体構造に基づき開発することを目指す。具体的には、がん細胞やウイルス感染細胞の除去に重要なナチュラルキラー細胞に発現する免疫系受容体Killer cell Ig-like receptor(KIR)群の機能を制御することを目的とする。
 細胞表面受容体は、通常の蛋白質と異なり、ジスルフィド結合や糖鎖修飾を受ける等、大変取り扱いが難しい対象である。これに対して、我々は細胞表面受容体に対する複数の大量調製技術を有する。1)大腸菌で封入体として発現させ、これを巻き戻す(リフォールディング技術)、2)ヒトHEK細胞を用いた一過性分泌発現による大量調製、3)バキュロウイルスのプラスミドDNAの直接接種によるカイコ個体での大量発現。これらの幅広い発現技術を利用して、抗体(蛋白質)医薬品およびそのターゲットを大量調製する。また、我々はこれらの受容体の相互作用解析および立体構造解析に実績を有するため、KIR特異的モノクローナル抗体のKIR認識機構を相互作用解析と立体構造解析により解明する事により特異性の高い高機能性抗体医薬品を開発する。


KIR免疫受容体に対する抗体医薬作成